延べ竿で鯉!!釣行記

新天地での釣り

3月の末に徳島を後にし、新しく高知へとやってきた。
大学入試。前期の東北大には二次で力及ばなかったが、それでも難関大を目指していたおかげで、
センター試験では得点率が8割を越えなかった科目は国語だけ、全体の得点率は約81%と、
このことが高知大の後期試験では大いに役立った。
高校の先生方には口々に「もったいない」「あと1年頑張ってみないか」なんて言われたりもしたが、気にしなかった(今はすごく気にしている)。
ただ浪人する勇気が足りなかっただけでは、と言われればそれまでだが、高知という土地を選んだのには別の理由もあった。

それは釣りだ。
高知なら同じ四国内だし、ある程度釣り事情も徳島と似ている。
それに高知は特に鯉が多い。用水路を覗けば、そこにはかならずと言っていいほど鯉の群れがいる。
そもそも母の生まれ育ちが高知であり、中3の時に祖母(つまり母の母)が亡くなるまでは毎年夏に帰省していたため、
高知にはそれなりの縁もあった。

しかし、今までは高知に来ても釣り糸を垂れることはなかった。
帰省していたのがお盆の時期だったからだ。


大学の授業が少しずつ始まって3日が経った4月15日のこと。
高校時代のクラスメイトで、同じく高知大へ入学した友達から釣りの誘いがきた。
実は高知に引っ越してきてすぐ、ひょんなことで互いに近くに住んでいることが分かり、
ついでに釣りが共通の趣味であることも、このとき初めて判明した。
釣りというのは意外に誰が興味を持っているのか、付き合いがあっても中々分からないもの。
そんなこともあって、この誘いに乗り、授業が終わった4時ころから、ある釣り場へ向かった。

その“ある釣り場”とは引っ越してきた当初から目をつけていた、鏡川へそそぐとある川(用水路)だった。
これからはこのような川・用水路をまとめて“鏡川系”と呼ぶことにする。

例により、そこには数多くの鯉の姿が見られ、釣り人としては釣ってみたいと思うのが自然なところ。

しかし、ひとつ問題があった。

今まで高知へ来たときに釣りをしなかったのは、お盆だったから、というただそれだけの理由でもなかった。
これだけあちこちに鯉が大量にいるということは…。市や町が放流していて、釣ることが禁止されている可能性があったために、手を出せずにいたのだ。
錦鯉が群れの中に居る場合は、例外なく放流・管理されていることが多い。
そのため、その“鏡川系”も事前に充分なリサーチが必要だった。

毎日、用水路沿いの道を行く人の様子を伺ったり、話の流れで大学の先生にも鏡川周辺の釣り事情を聞くことができた。
用水路自体にも目を向け、錦鯉の存在に注意した。

それらを総合的に判断した結果、“鏡川系”では特段に釣り禁止が提示されているわけではない、という結論に落ち着いた。
大学の先生も気にせず釣ればいいと 背を押して(?)くださった。錦鯉なんて居なかった。
ちなみに、用水路沿いを行く人の様子を伺ったのは、誰かがパンなどのエサを鯉にあげている可能性を確認するためのものだった。
半月ほど調査を続けたが、結果としては誰も鯉に餌付けしている様子はなかった。
餌付けされるほど地域から可愛がられている鯉を、目の前で釣ってしまうと面倒くさいことになるのは容易に想像できる。
餌付けされていないことも、釣りをするのに必要な条件だったというわけだ。

また、今“鏡川系”にいる鯉は産卵のために本流から遡上して来ている可能性もあり、現時点では予想にすぎないが、
もしかすると産卵をひと通り終えた夏頃には、この鯉たちはまた本流に大挙して戻り、“鏡川系”からは姿を消すのではないか、とも考えている。
そうであるなら季節の釣りとして街中のコンクリート護岸の小川での釣りもしやすい。


と、このような前置きがあって、今回の高知での初釣りへと話はつながる。

さて、今まで徳島でやってきた鯉釣りと、この高知“鏡川系”での鯉釣りの違いはどこにあるか。
それは鯉が見えるか見えないか、ということになる。
もちろん徳島に居た時も見え鯉を釣ることはあったが、高知ほどそういう環境は多くないし、
自分の釣りのスタイル上、深い池の底にいる鯉を狙うことが多かった。

しかし、せっかく高知に来たのだから、ここで一旦、今までの釣りスタイルを転換してみようと思った。
延べ竿を使うことに変わりはないが、釣法・仕掛け・エサともに“見え鯉”向きのものへと今回から大きく変化することになる。

その名も“延べ竿スーパーボール釣法”。
名前はこのサイト独自のものであるつもりだが、釣り方そのものは良く知られている“パンプカ釣り”に似たもの。

なにはともあれ、まずはタックル・仕掛けを紹介しよう。


竿超硬調万能延べ竿“黒流”5.4m
道糸ナイロン5号通し
ハリスナイロン5号通し
チヌ鈎5号
その他釣り用スーパーボール(投入補助) カラー:クリヤー
エサお魚ゲッチュ(マルキュー)

だいたいのイメージは掴んでもらえるだろうが、この仕掛けを鯉のいる水路で流して使うということだ。
そのためオモリが使えないので、仕掛けの操作性を上げるため、今回初めて釣り用スーパーボールを導入することにした。

当然、仕掛けはできるだけ長い距離を流したいので、延べ竿という縛りの中でそれを実現するには、
この用水路の“幅”には見合わない長竿を使用することになる。
しかし、仕掛けを“流す”のだから、用水路の“幅”と竿の長さを結びつけるのはナンセンス。
つまり、時には用水路を上流から下流へと縦に見て、いわば奥行き∞の釣り場としてとらえる視点も必要ということだ。
これで使える延べ竿の長さは釣り人の力量、製品的限界の許す限り、いくらでも長くしてよいことになる。

今回のエサは食パンではないため、当初イメージしていた水面を流す釣りではなく、見えている水底ギリギリにエサを流しながら釣る形となった。

友達が先に釣りを開始。管理人が準備をしている地点から10m程上流のポイントを攻めるようだ。

自分も準備を済ませ、とりあえず淵を流してみる。
この用水路の水深は不均一で、深いところでは1m弱、だいたいのところは50cm未満だ。
目の前にはたくさんの鯉が見えるが、やはり見かけ以上にそう簡単には釣れてくれない。

ここで、しばらく鯉の回遊ルートの見極めに入ることにした。
長い水路であっても、いわば“区間”のようなものが存在し、それぞれの“区間”内で鯉たちはある程度決まったルートで行き来しているようだった。
“区間”の境界の役割を果たしているのが、ここではその不均一な水深なのだろう。

そのうち、管理人が釣っている目の前の淵を、下流の対岸方向から斜めにこちらへ向かう形で、鯉たちが上流へまた戻ってきていることが分かった。
戻ってくる過程で水底のエサを探しているような行動も見られたため、その付近を少し上流からゆっくり流して狙ってみることにした。

すると、時々鈎のついたエサにゆっくりと近づいてくる鯉がいるものの、寸前で食わないという状況になった。
一見なにも進展していない状況かのように思われるが、ここでは鯉がエサに興味を示してくれる状況に持ち込めたのだと考えてほしい。
こういう釣りでは鯉の姿が見えるおかげで、回遊ルートの見極めも比較的容易に行え、このような状況を作り出すことができるのだ。

下手な鉄砲数撃ちゃ当たる、とはちょっと違うかもしれないが、
何度も鯉がエサに近づいては直前で逃げる、という状況を繰り返すことができれば、そのうち1匹エサに喰いついてくれるヤツが現れるハズ。
そう信じて仕掛けを流し続けた。

当然だが、アタリは水中のエサに鯉が喰いつくのを直接見てとることになる。
これまでのヘラ釣りスタイルでの鯉釣りでは、まず有り得なかったことだ。
そのため、空鈎を引くことが多くなった。鯉がエサの間近まで迫ってきたところで反射的に竿を勢いよく立ててしまうのだ。

しかし、それは突然訪れた。
管理人、友達共々、半ば諦め調での釣りに入っていた時、
突如下流から太く大きな鯉が管理人のエサに近づいたかと思えば、そのままエサを吸い込み、水面へと顔を向けた。

言葉を発する前に竿を立てており、直後に想像もしたことのない“重み”が両腕にのしかかってきた!

「よっしゃきた!!」

の合図と共に掛かった鯉が友達のいる上流へと走り始めた。
心拍数が一気に上がる。
いつもならバラさないように自発的に岸を移動するのだが、今回は違った。
まるで鯉に竿ごと自分が引っ張られ、岸を歩かされているように感じた。

このままでは友達の仕掛けと絡む、というところで、鯉が対岸の、上流の深みへと続く箇所に向かい始めた。

ここで一旦、鯉独特の走りは落ち着いた。
だが、本当の闘いはここからだった。

「浮いてこん…!!」

始めからこの鯉はこれを狙っていたのか、深みに入ると底に張り付き、いくら腕を上に伸ばして浮かせようとしても、
竿が根元から曲がるばかりで、鯉の位置は横すべりし、そのまま底に張り付いている状況を変えることはできなかった。
水面に浮かせられないのでは取り込みのしようがない!

しばらく現状維持の膠着状態が続いた。
その間はまるで、手に持つ長い鉄棒の先に両腕いっぱいの大岩を吊るされ耐えているようだった。こんな“重い”やりとりは初めてだった。


掛かった鯉とやりとり中の管理人


足下ではどうも浮かせられそうにない。
そこで一度鯉を足下から対岸へと離し、浮かせてみることにした。
そうすると一瞬水面まで浮かせられるのだが、こちらへ寄せてくる間に、やはり徐々に潜ってきてしまうのだった。

数回それを繰り返し、もう腕の疲労も大変なことになっていたが、それは鯉の方も同じだったらしい。
だんだんと浮いたまま岸へ寄ってくるようになった。
すかさず磯玉を右手に構え、頭から掬おうとするが、うまく入らない。
口径50cmの磯玉にすんなり入らないとなると、コイツは相当に大きい。
取り込みに手こずる。

「俺が掬ったほうがええんちゃうん!?」
「いや、もういける!!」

一連のやりとりをムービーで撮影してくれている友達と会話を交わし、
今度こそ、という思いで何度目かの取り込みに入る。

「よっしゃ入った!!」

そして、ようやく不恰好ながらも大鯉を磯玉に収めることができた。
実に5分に及ぶ、これまでの管理人の釣りで他に類を見ない、長いやりとりだった。

水中から引き上げる時、磯玉からミシミシと音が聞こえた。
そう、今回の鯉はいままで釣ってきたのとは違う。
ただ大きいだけじゃない、“重”かったのだ!
今までも幾度となく、大きいと思う魚は釣ってきた。しかし、釣った魚を“重い”なんて思ったのは今回が初めての経験だった。

やっとのことで岸に上げ、サイズを測ると、ついに念願の70オーバー、
72cmの大鯉だった!


この測定の結果、70cm越えであることが判明

初めて手にした“重い”1匹


用水路の上では一部始終を目撃した小学生や、おじいさんが驚いてくれている。
そして、磯玉に鯉が入った直後に緊張がほぐれ、同時に全身にどっと疲れがおそってきていた。
ひと通り写真撮影を終えたあとは、もう釣りをする気力もなく、終了予定時刻まで30分程時間を残して、管理人は一足先に納竿することにした。

友達は、残念ながらヒットに持ち込むことはできなかったようだが、おしい場面は何度かあったという。
結果としては、あれだけの数の鯉が居て、二人がかりで竿を出して管理人がやっと1匹釣っただけなのだから、
“見える魚は釣れない”ということを、ある種認めざるを得ない。今回はエサの問題もあるが。

なんにせよこの通説を覆さねば。
友達とリベンジを約束し、今回の釣りを終了した。

“見え鯉”という新たなジャンルに本格的に足を踏み入れた今回、
高知での初釣りで“延べ竿で70オーバー”という一つの目標を達成できたことは、大いなる一歩となりそうだ。

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